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ES細胞移植による視力改善のニュースについて   2012年 01月 25日

本日、不治の病の治療に光が差すニュースが流れました。

「ES細胞使い視力改善=世界初の臨床試験で―網膜疾患患者2人・米チーム」
さまざまな組織になることができるヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を使って、目の網膜を治療する臨床試験(治験)で、患者の視力の改善効果があったとする成果を、米国の研究チームが23日付の英医学誌ランセット(電子版)に発表した。移植された細胞に異常や拒絶反応もないという。
 アドバンスト・セル・テクノロジー社と米カリフォルニア大のチームは、失明につながる「加齢黄斑変性」と「黄斑変性」の患者を対象にES細胞から作った網膜色素上皮を移植する治験を昨年から始めた。
 移植から4カ月までに患者2人の網膜色素上皮は定着、細胞の異常増殖やがん化は確認されていないという。安全性を確かめる試験で、実用化には有効性の立証が必要になるが、特殊な視力表を使った検査で視力の改善がみられたという。ヒトES細胞の治験の成果が明らかになるのは初めて。(朝日新聞電子版より抜粋)

ところが、それに水を差すようなこんな反論も…



「ES細胞で視力改善に疑問の声」
体のあらゆる組織や臓器になるとされる「ES細胞」を用いたところ、目がほとんど見えない人の視力が改善したとするアメリカの研究チームの発表に対し、地元のメディアからは「本当に効果があるのか疑問だ」といった懐疑的な見方も出ています。
この研究は、アメリカの民間企業「アドバンスト・セル・テクノロジー社」がカリフォルニア大学などと共同で行ったもので、23日にイギリスの医学誌「ランセット」などに発表しました。研究チームは、病気で目がほとんど見えないという2人の患者に「ES細胞」でつくり出した網膜の細胞を移植したところ、文字が見えるようになるなど視力が改善したとしています。この発表は、アメリカのメディアがこぞって取り上げていますが、その成果に懐疑的な専門家の見解も紹介しています。このうち、3大ネットワークの1つであるABCは、インターネットの記事で「2人の患者を4か月間治療しただけで結論を導き出すのは無理がある。目の病気で苦しんでいる数百万人の人に間違った期待を持たせてしまう」という専門家の意見を取り上げています。また、ニューヨークタイムズも、視力が改善したという患者のうち1人については、本人の思い込みだった可能性があると指摘したうえで、「安全性を見極めるにはもっと時間が必要だ」という専門家の意見を紹介しています。(NHK news WEBより)

私がアメリカ留学していた時に研究に携わった「人工網膜」は、同様の目の病気に対して視力を改善させるという同じ目標の下、移植とは違ったアプローチで行われていたものなので、当然ES細胞やiPS細胞移植ともオーバーラップする部分が多く、大いに興味を持っていました。

今回の発表は間違いなく前進だとは思いますが、まだまだ小さな一歩のように思います。ES細胞移植では初めてだったかもしれませんが、人工網膜の分野ではこの程度の結果はすでにいくつも発表されていますし、反論にもあるように症例数が少なすぎて検証が十分になされていないので、ベンチャー企業が他に先んじるために発表を急ぐあまりの発表、という感が否めません。現時点では「画期的な治療」にはまだまだなりえませんが、将来実現される可能性はある、とは言えるのではないでしょうか。

テクノロジーの進歩は私達の想像以上に進むこともありますので、できるだけ早い実現を期待しましょう。同時に、日本のiPS細胞移植チーム(こちらもご参照ください)と、世界各地の人工網膜研究チームにも引き続き頑張っていただきたいと思います。


by keye-clinic | 2012-01-25 20:05
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東戸塚駅西口すぐにある片桐眼科クリニックの院長ブログです。


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